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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)4375号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人朴戌申の弁護人大竹武七郎の上告趣意(一)について。

判決で認定した甲罪と同乙罪との中間で被告人が丙罪についての確定判決を受けたという事実を前科調書によって認め、これによって丙罪と甲罪とは併合罪(刑法四五条後段による)となるが、甲罪と乙罪とは併合罪の関係に立たないものとして(すなわち量刑の法律上の範囲が併合罪の場合のように軽くならないものとして)量刑するには、右前科調書は口頭弁論に顕出され右認定の資料として刑訴三〇五条による証拠調を経たものであることを必要とする(累犯加重事由たる前科の証拠についての昭和三二年(あ)一〇二九号同三三年二月二六日大法廷決定、集一二巻二号三一六頁参照)。右の趣旨と相反する論旨挙示の判例は当裁判所の採用しないところである。

記録によると、第一審判決は被告人の前科を認定しなかったのに、原審は所論のとおり松山地方検察庁西条支部に照会して取寄せ原審第一回公判前受領した被告人の前科調書によりその記載通り被告人が昭和二六年九月二五日松山地方裁判所西条支部において酒税法違反により懲役六月(三年間執行猶予)罰金一万円の確定判決を受けたとの事実を認定し(他に右の通りの認定のできる資料は記録上存在しない)、右西条支部の判決は原判示(一)の一連の賍物故買罪と同(二)の一連の賍物故買罪との中間で確定したことになるので、右確定にかかる酒税法違反罪と原判示(一)の罪とは併合罪になるが、これらと原判示(二)の罪とは併合罪の関係がないものとし、原判示(一)と同(二)とにつき各別の主文で刑を言い渡した。然るに、原審では右取寄にかかる前科調書が口頭弁論に顕出され証拠調を経た形跡は公判調書上認められない。してみれば原判決が口頭弁論で証拠調を経ない前科調書により被告人に右有罪の確定判決があった事実を認定した点は違法であるといわねばならない。けれども原判決と同一の各事実を認定しながらその全部を刑法四五条前段の併合罪と考えて宣告した第一審判決の刑に比して原判決の二つの宣告刑の合計は重いとはいえないので右原判決の違法は刑訴四一一条により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。所論は結局採用することができない。

同(二)について。

所論は昭和二七年一月八日付検察官事務取扱検察事務官工藤勇作成にかかる被告人の供述調書の末尾に存する「山本花子」という署名の字体が所論の他の供述調書等における片仮名の署名と対照すれば被告人の自署でないことは一見明白であるとし、右供述調書の作成方式の違法と信憑力のないことを主張して判例違反をいうが、論旨引用の判例は旧刑訴法に関するものであって本件に適切でなく、所論は右調書を証拠として採用した第一審判決に対する控訴趣意として原審で主張なくその判断を経ていないものであるから採用することができない。

被告人朴戌申の弁護人村上常太郎の上告趣意第一点は判例違反をいうが、引用の判例は事案を異にし本件に適切でない。所論はひっきょう単なる法令違反、事実誤認を前提もしくは実質とするもので採用することができない。

同第二点は事実誤認の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人金五竜の弁護人宮崎忠義の上告趣意は量刑不当の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人安奉化本人の上告趣意は量刑不当の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条により裁判官垂水克己の補足意見あるほか全員一致の意見で主文のとおり判決する。

被告人朴の弁護人大竹武七郎の上告趣意(一)についての裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。

1  刑法は、人が順次数多の罪を犯した場合に、その全部を併合罪としてまとめて刑を科すべきものとはしない。人が或る罪について有罪の確定裁判を受けたときはその確定裁判のあった罪と確定裁判前の他の罪とだけを併合罪とし、比較的軽い刑(重過ぎない刑)を量刑し一段落をつけるべきものとする合理的な規定(四五条ないし五三条)を設ける。有罪の確定裁判があったのに、新に罪を犯した場合にはこの新しい罪と右確定裁判以前の罪との併合罪関係は確定裁判により遮断され成立しない。

この併合罪の規定は被告人に利益になるように量刑の法律上の範囲を定めたものである。例えば数個の窃盗罪(法定刑懲役一〇年以下)が併合罪の関係に立たない場合にはその各個につきそれぞれ懲役一〇年以下を宣告でき、それが二個でも合計懲役二〇年以下で各別の主文で刑を宣告される。しかるにこれが併合罪となると四七条により二個でも十数個でもの窃盗を併せて法定刑の長期の一・五倍(一五年)以下の一個の懲役を宣告されるだけで済む。また「併合罪中其一罪ニ付キ死刑ニ処ス可キトキハ他ノ刑ヲ科セス……其一罪ニ付キ無期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス可キトキハ亦他ノ刑ヲ科セス但罰金……ハ此限ニ在ラス」とされる。非併合罪についてはかような有利な制限規定はない。併合罪たるべき数罪につき各別に裁判があったときは執行段階で右の限度に軽減して刑が執行される(五一条)。してみれば、併合罪関係を遮断する原因たる事実(有罪の確定裁判)の存在は被告人にとって不利益になりうる事実だといえる(累犯加重原因としての前科の存在に似ている)。

2  のみならず、右有罪の確定裁判があったという事実は一の特別の事実であり、特別の事実は、刑の減免の事由たる事実(心神耗弱、自首、窃盗についての相互の親族関係、その他)の如く被告人に有利なものであっても、公開の口頭弁論で取調べられた何らかの証拠によらないで恣意的にこれを認めることは証拠法の原則に反し許されないと考える。(記録に編綴されている証拠書類であれば口頭弁論で取調べたものでなくてもよいとの説は旧刑訴法のアタマである。もっとも、確定裁判のあった事実は起訴にかかる犯罪事実認定の証拠ほど厳格なものたるを要しないと私は考える。)

3  本判決が原判決の違法は判決に影響しないとする点に関連して、次の問題は検討に値しよう。一般に、(イ)刑の加重減免の事由がないのに(或いは証拠上認められないのに)、これをあるものと認め刑の加重減免に関する法条を適用してその刑期範囲内で量刑した場合、あるいは(ロ)控訴審で第一審が認めなかった前科を不法に認めて累犯加重しその範囲内で量刑した場合はどうか。(イ)の場合でも宣告刑が刑の加重減免の範囲を逸脱せず、また(ロ)の場合にも第二審判決の刑が累犯加重しない刑の範囲内で、第一審判決の刑を不利益に変更しない範囲内で宣告されているなら、これらの違法は判決に影響しないといえるか否か、更に進んで、擬律の際刑の加重減免に関する刑法の規定の適用を示さなくても、結果においてこれを適用した場合の法律上の量刑範囲を逸脱しない刑が宣告されていさえすればその違法は判決に影響しないといえるか否か、である。これを示さないために判決理由不備といえる場合はありうるであろう。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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